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千代田区の「路上喫煙防止条例」を読み解く

取締役主任研究員  西宮 幸一

 平成14年6月25日、都内千代田区で「安全で快適な千代田区の生活環境の整備に関する条例」(以下、「条例」)が制定された。区内に路上禁煙地区を設け、そこでのポイ捨てばかりか喫煙行為そのものに対しても過料(2万円以下)を課す全国初の条例ということで、全国的にも大きく報道された。

 一般に、「ポイ捨て防止条例」は住民への啓発効果を狙って制定されることが多く、マスコミで盛んに報じられた時点で、制定の目的は半ば達成されたといえなくもないが、少なからぬ税金と時間をかけて制定される条例が、単なる打ち上げ花火に終わっていいものでもない。

 また、「ポイ捨てはけしからんから厳しく取り締まればいい」という意見も少なくないが、協働で美しいまちづくりに取り組もうという視点に立ったときには、別の考え方もあり得よう。

 そこで本レポートでは、千代田区の「条例」の意義と課題を、まちづくりに携わる実務者的な立場から読み解いていきたい。

■ 一番の意義は「美化対策の統合化」

 千代田区は、官庁街が広がる一方で盛り場地区もあるエリアである。タバコのポイ捨てもさることながら、ピンクチラシや捨て看板などの環境浄化対策も急がれている。

 実はこの「条例」も、名称に「安全」と「快適」を含んでいることからもわかるように、ポイ捨て・喫煙のみをターゲットとしているわけではない。条例の趣旨に基づき重点的な対策を講じる地区を指定する、いわゆる「指定地区」について、「違法駐車等防止重点地区」、ポイ捨てやチラシを対象とする「環境美化・浄化推進モデル地区」、それに「路上禁煙地区」の3つを規定するなど、交通の危険のないまちづくりや、風俗系のチラシ・看板対策(環境浄化対策)を視野に置いている(第19〜21条)。

 美化というと、ともすればポイ捨て問題ばかりが取り上げられがちだが、快適に使える公共空間管理を進めるという意味で、本来は環境浄化対策や放置自転車対策と連携させて解決を図るべき課題である。しかし現実には役所の機構の「縦割り」があり、各課間の連携が乏しいまま、住民に個別問題ごとに協力を求め、効果的な取り組みに至らないケースがしばしば見受けられる。

 その点、千代田区の場合は、放置自転車対策こそ別条例となっているが、安全な公共空間利用・通行に関係する広義の美化対策を、一本の条例に取り込み、統合化を目指している。ここにこそ、千代田区「条例」の最大の特徴があるといえる。

■ 地域住民の主体性をより重視

  「条例」では、千代田区役所が強権を発動して美化対策を進めることを想定していない。

 むしろ期待しているのは、美化推進に対する地元の主体性発揮である。上記3指定地区では、区民・事業者が、環境美化・浄化推進の自主組織づくりに努めねばならないこととなっている(第22条)。さらに事業者は、その活動する地区で、地元町会などと美化活動の内容などについての「環境美化及び浄化に関する協定」締結に努力することとされている(第23条)。確かに過料規定はあるが、たとえ一罰百戒的なものであってもその適用(つまりは、警察権力による摘発)を重視しているとはいいがたい。

 いうまでもなく、単純に罰則付き条例で取り締まりを強化すればポイ捨てが減る、とはならない。ましてや、ポイ捨て行為が取り締まりにかかってしまうコストに見合うだけの重大事犯かどうか、いや、そもそもポイ捨て行為を取り締まりで解決しようとする社会のありかたが望ましいのかどうか、疑問のあるところだ。

 そのため、昨今のポイ捨て防止関連条例では、地域の主体的活動の誘導に主眼を置いて内容を策定することが一般的である。仙台市のように、従前の条例を「ごみの散乱のない快適なまちづくりに関する条例」に改正する際、罰則規定を削除した例もある。

 千代田区の「条例」も、昨今のポイ捨て防止関連条例の考え方に立った、住民活動誘導のための条例と位置付けられる。

■ 事業者・オフィスをどれだけ巻き込めるか

 いわば、「安全で快適な千代田区の生活環境の整備に関する条例」は、他自治体におけるのと同様、地域の住民による活動という下支えがなければ機能し得ない条例である。したがって、積極的な地域活動を推進するための仕掛けが必要となる。

 とはいえ、千代田区はインナーシティ問題が顕在化し、昼間人口100万ともいわれるのに対し、夜間人口は約4万人という自治体である。定住者の活動に依拠するといっても、自ずと限界があろう。

 そこで重要となるのが、区内に立地するオフィス・商店等の事業者による美化の取り組みである。事業者の盛り上がりを促すための区の美化戦略をどう構築するか、そして各方面への呼びかけをどのように進めるかが鍵となるのではなかろうか。

 筆者は千代田区政に関与すべき立場にないので、あくまでも私見として述べさせていただくが、地域貢献に関する意識は大手の企業には根付きつつあるので、なるべくこうした大手企業や、区内の同業団体・事業者ネットワーク等には早い段階から協力を求め、各指定地区の環境美化・浄化推進団体に参画を得ることも一案であろう。

■ 協働の美化推進組織が不可欠

  筆者は、長年自治体の美化問題には関わるなかで、この問題にこそ、「協働」による課題解決のアプローチが必要との認識をもっている。市街地という公共空間が、さまざまな人の利用と地域住民の愛着・プライドによって磨かれるものとするなら、自治体の財政・人員の両面で厳しくなっているから住民と連携するという受身の「協働」ではなく、まちの自治の問題として、地域住民が「協働」を選び取るべきである。

 何十万もの人々の利用と往来のある中心市街地であれば、地域のボランティア活動を行政がバックアップすることに加え、地域の企業が出資した清掃・美化推進母体にボランティア住民が担い手として参加し、それを行政が支援するといったグラウンドワーク的手法が導入されてもいいと考えるが、一足飛びにそこまでたどり着かないとしても、住民と行政の協働の実績が積み重ねられない限り、美しいまちが持続しないのは事実である。

 その意味で、わが国の代表的中心市街地といえる千代田区の「条例」制定は、新たな協働型美化システムの先鞭をつけるものと位置付けてよい。千代田区及び区民・事業者一体の美化活動が地域に浸透するとともに、各地の市街地美化施策に波及することを期待してやまない。