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水から始めるエコライフ

代表取締役所長  山本 耕平

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(大阪ガスエネルギー文化研究所ホームページ)

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地球規模の水問題

 二〇〇〇年八月に南アフリカ、ヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議」では、水問題が主要な議題の一つとして掲げられた。二〇〇三年三月には、日本で「第三回世界水フォーラム」が開催され、一八三の国・地域から約二四〇〇〇人が参加し、地球規模の水問題について様々な会議が行われた。これを契機に、日本でも水問題への関心が高まってきている。

 今、世界では三分の一近くの人々が慢性的な水不足の中で暮らしており、一〇億人以上の人々が、安全な飲料水を手にすることができない。また二〇億人以上の人々は劣悪な衛生環境の中で生活しており、水が原因の疾病によって、毎日およそ六〇〇〇人の子どもが命を失っている。この状態を放置すれば、二〇二五年までには世界人口の三分の二近い人々が、何らかの形で水に関係する困難を経験するだろうといわれている。

水汲みをする女性(バングラデシュ)

バングラディシュの農村。水汲みはどこでも女性や子どもの仕事である。この国では広い地域で地下水のヒ素汚染が問題になっている。

 国連では、淡水資源の持続可能な管理を改善するとともに、二〇一五年までに安全な飲料水に接し、または購入することのできない人の割合を半減するという目標を掲げているが、その実現には様々な課題がある。

 地球は水の惑星といわれ、七〇パーセントが水に覆われている。しかしその水の九七・五パーセントは海水で、淡水はわずか二・五パーセントにすぎない。しかも淡水の七〇パーセントは極地の氷や氷河であり、残りの大半も地下水として蓄積されているもので、われわれが普通に利用できる河川、湖沼の水は、地球上の水のたった〇・〇一パーセントであるとされる。

 この乏しい水資源をめぐる争いは、世界中で何度も繰り返されてきた。イスマイル・セラゲルディン前世銀副総裁は「二〇世紀は領土紛争の時代だったが、二一世紀は水紛争の時代になるだろう」と述べたが、水問題の深刻さを象徴している言葉である。

日本は水に恵まれているか

 ほとんどの日本人は、日本は水に恵まれた国であると思っている。確かにわが国はアジアモンスーン地帯に位置しているため、世界でも有数の多雨地帯である。

 国土交通省の資料によると、日本の年平均降水量は一七一八ミリで、世界の年平均降水量約九七〇ミリの約一・八倍となっている。陸地に降る雨の年間総量は約六五〇〇億立方メートルで、そのうち約二三〇〇億立方メートル(三五パーセント)は蒸発してしまい、残りの約四二〇〇億立方メートルが最大限利用可能な量(水資源賦存量)である。現状では約八七〇億立方メートルしか利用しておらず、水資源賦存量に対する水資源利用率は二一パーセントで、三〇〇〇億立方メートル以上の水は、海へ流出したり、地下水として貯えられたりしている。この数字を見る限り、日本は水に恵まれた国だといえるだろう。

 しかし、人口一人当たりの降水量を見ると、日本は約五一〇〇立方メートルで、世界平均二二〇〇〇立方メートルの四分の一程度にすぎない。しかもダムの貯水量を一人当たりに換算すると、東京首都圏はわずか三〇立方メートルで、ニューヨークの約一〇分の一、ソウルの約一三分の一である。これらは数字のマジックのようなところがあるが、日本は水に恵まれた国だと思いこんでいたら、いささか驚かされる数字ではある。

 水資源に余裕があるといっても、地域的な渇水はしばしば起きている。二〇〇〇年度はやや降水量が少なかった年で、この年の水資源使用率は、首都圏では六五パーセント、近畿圏では四五パーセントにもなった。人口増加に対してダムによって水を確保するという方法は、すでに限界が見えている。したがって限られた水資源をできるだけ有効に利用するということを真剣に考える必要がある。

日本は水の輸入大国

 水問題は量の問題だけではない。水質の問題もある。日本の水道水は、大部分を河川や湖沼を水源としているために、これらの水質の悪化が飲用水の質の低下を招いている。技術的にはどんなに汚れた水でも飲めるように浄化することは可能だが、極めてコスト高になる。また原水に含まれる有機物と消毒に用いられる塩素が反応して、発ガン性があるといわれるトリハロメタンが発生するといった問題もある。

 ところで「日本は大量の水輸入国である」と言うと驚かれるだろう。ミネラルウォーターの輸入大国になったということではない。ミネラルウォーターの消費量は一五年前に比較すると一五倍も増え、二〇〇三年度は一四六万キロリットル、輸入が三三万キロリットルである。確かに量は増えているが、生活用水に占める割合とすれば微々たるものである。

 わが国が輸入している一次産品や資源の多くは、原産国で大量の水を使って生産されている。これをバーチャルウォーター(仮想水)といい、東京大学の沖大幹助教授によると、バーチャルウォーターの輸入量は年間約一〇〇〇億トンで、世界最大の淡水輸入国になる。世界の水問題は日本人の生活にも深く関係しているのである。したがって国内ばかりでなく世界の水問題にも関心を持ち、その解決に寄与していくことが求められる。

雨水利用のすすめ
筆者の自宅軒下の雨水タンク

我が家の軒下に設置している雨水タンク「天水尊」。約200リットルの雨水を貯めることができる。

 身近でできる水問題への取り組みの一つが「雨水利用」である。雨水を上手に使えば、水道水の節水にもなるし、都市型洪水の防止にも役立つ。利水と治水に役立つ「まちの中の小さなダム」なのである。

 雨水利用の先進地域として知られている東京都の墨田区では、区内の三〇パーセントの施設に雨水利用を普及すれば、一ヶ月近く区外から水の供給がなくても、区民一人一日当たり一一リットルの水を供給できると試算している。

 雨水利用はそれほど複雑な技術を要するものではないが、一定の水質を確保するためにはある程度の工夫が必要となる。

 集水は一般的には屋根で行う。雨樋で集めてタンクに貯留する。コンクリートの駐車場や道路などから集水することも可能だが、屋根集水の方が、汚れが少ない水が得られる。大規模な施設では屋根以外の場所からの集水も行われている。

 普通は雑用水に使われるが、非常時には十分飲用も可能である。沖縄や三宅島などでは雨水を飲用に使ってきた。雨水は有機物を含まないので腐敗しない。ただし大気や集水面の汚れを溶かしてくるので、きれいな水を確保するためには降り始めの雨をタンクに入れないようにすれば、そのままでも飲める。

墨田区の雨水資料館

墨田区には世界でただ一つの「雨水資料館」がある。玄関に設置されているのはスリランカの雨水タンク。「問題は水、解決は雨水」と書かれている。

 市販の二〇〇リットル程度の小型タンクでは、散水や清掃などに使える程度だが、トイレに使う場合は、一定の容量のタンクを設置する必要があると共に、貯留雨水が少なくなってきたら上水が補給されるようにしておく。タンクの容量は、例えばオフィスビルのような建物でトイレの洗浄水として使うには、集水面積の一〇分の一程度の容量が必要である(例えば、集水面積一〇〇平方メートルの場合一〇トンになる)。個人住宅では、四人家族で一〇トン程度のタンクを設置して、雑用水の約八〇パーセントが賄える。また、二トンのタンクで、大人二人分の水洗トイレの洗浄水をすべて賄っている例もある。

 雨水を貯める容器さえあれば雨水利用はできる。雨水を貯めるようになると、雨が待ち遠しくなる。水の恵み、自然の恵みを実感することができる。日本には雨にまつわる言葉、歌、文芸などが多い。雨の呼称も季節や降り方によって数え切れないくらいある。われわれは雨と共生してきたのである。その気持ち、感性をもう一度呼び覚まし、水を大切にする生活を取り戻すことが、世界の水問題の解決にも寄与することにつながっていくのではないだろうか。

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