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古紙持ち去り禁止条例

−組織化した持ち去り行為を条例で規制−

代表取締役所長  山本 耕平

古紙持ち去り行為の背景

 リサイクルというのは、元来は民間の事業として行われてきたものである。しかし民間回収だけではリサイクルが機能しなくなってきたため、それを補完するために自治体は「資源分別収集」を導入した。当初その対象は消費が急増してきた空き缶やワンウェイびんであり、古紙は依然として民間回収の対象であった。資源分別収集は昭和50年代から自治体に取り入れられていき、平成7年に制定された容器包装リサイクル法によって全国で行われるようになった。

 平成に入って、ごみ減量は喫緊の課題となり、なかでも「紙ごみ」の減量は優先課題となった。日本製紙連合会は平成2年に、古紙利用を55%にまで上げることを掲げた「リサイクル55 計画」を打ち出し、翌年には「再生資源の利用の促進に関する法律」が制定されて法律上も古紙利用率目標が設定された。製紙業界ではそのために、新聞紙などからインクを除去する「脱墨装置」など古紙利用設備の拡充を図った。

 このように、古紙の需要を拡大しようという動きが進められる反面、平成7年に1 ドルが79 円75 銭になるほどの円高が到来し、輸入パルプ価格は暴落、それに合わせて古紙価格も急落した。古紙回収業者の採算が悪化し、一時期は回収業者が問屋に古紙を持ち込むと料金をとられるという、異常な事態が出現した。古紙回収業者は自治体からの支援がないと、古紙回収を継続できない状況になった。自治体はごみ減量のために、集団回収(自治会や子供会などの地域団体のリサイクル活動)に対する補助金や助成金を拡充したり、資源分別収集の対象品目に古紙を加えて直接回収するところも出てきた。その結果、古紙価格がマイナスとなっても回収量は増えるという事態になり、古紙価格はますます低落するという状況が数年続いた。

 こうした状況を背景として自治体による古紙の分別収集が拡大し、ついに平成11年には東京都が23区のほぼ全域で「東京ルールT」と名付けて古紙の分別収集(行政回収)を開始した。これに続くように首都圏の自治体でも古紙分別収集が広がり、ついに横浜市でも17年4月から全市で実施するに至っている。このように集団回収と行政回収の二本立ての回収ルートが構築されたことで、古紙回収量は急増した。国内の古紙消費量も10年間で20%以上増大し、中国やアジア諸国への輸出によって供給過剰・価格低落という事態を免れているが、原材料の市況はもともと不安定であるために、いつまた古紙価格が暴落するかは全く予測がつかないのが実情である。

古紙回収率・利用率の推移

▲古紙回収率・利用率の推移(資料:紙・パルプ統計年報及び月報)

古紙の輸出・輸入の推移

▲古紙の輸出・輸入の推移(資料:日本貿易月報)

古紙持ち去り行為の実態

 低迷が続いていた古紙価格は、中国や台湾、タイなど、アジア諸国の景況を背景として古紙需要が高まり、古紙の輸出が始まったことで上昇に転じた。古紙は回収量と需要がほぼバランスしていたので輸出する余力はなかったのだが、国内の余剰分(在庫)を減らすために輸出が始まると急激にその量は拡大している。それにあわせて価格も上昇し、ほぼバブル期以前の水準まで回復している。

いくら集めても採算がとれないために行政が回収に乗り出したが、いつのまにか価格が上昇し、ごみステーションに出された「紙ごみ」は再び「有価物」に変身したため、こっそりこれを抜き取る行為が目に余るようになった。これが持ち去り問題の発端だった。

 問題が顕在化したのは、持ち去り行為が「こっそり」ではなく「堂々」と行われるようになったからである。もともとごみステーションからアルミ缶や段ボールを抜き取って生計の足しにする、定職を持たない貧しいしい人たちがいた。しかし、今日問題となっている持ち去り行為は、組織的かつ大規模なもので、市町村の損失も半端なものではない。

 業界紙によると、平成15年度の東京23区の行政回収の量は2年連続で減少し、14年度よりさらに2万5千トンも減ったという。ピークの平成13年度からみると実に3万7千トンも減少している。東京23区でおおむね60万トンの古紙が回収されているはずで、その内訳は集団回収が18万トン、分別収集で42万トンは集まっているはずだという。しかし、実際の分別収集量はわずか22万トンで、20万トンは抜き取られているのではないかと推定している。(「古紙ジャーナル」2004.7.19)このような大規模な持ち去り行為は、特定の「専門業者」が行っていると見られている。

 家庭から古紙を回収ルートには、集団回収、販売店回収(新聞販売店が回収業者に委託して古新聞を回収する)、チリ紙交換などがある。元来は「買出人」と呼ばれる回収専門業者が各家庭をまわって、古紙やボロ(古着・古布)などを回収していたが、効率の高い集団回収が主体となり、家庭を回る回収はチリ紙交換として残った。チリ紙交換に回る業者はほとんどが個人営業で、「チリ交基地」と呼ばれる大手業者と契約している。資本が無くても、車両や景品はチリ交基地から借りることができる。回収した古紙はチリ交基地かが買い上げて、その代価で車両代、景品代、燃料代などを賄う仕組みである。チリ交に従事する人は流動的で、古紙価格が高くなれば従事する人が増え、逆になれば減る。

 こういう形態の回収人は、集団回収には従事できない。集団回収は価格変動にかかわらず、継続的に行わなければならないし、実施団体や行政と適切に対応していかなければならない。したがって協同組合などに所属し、安定的に事業を継続してきた業者が担っている。こうした業者からすれば、チリ交はアウトサイダーということになる。古紙の持ち去り問題は、このようなアウトサイダーと既存業者の対立という側面も持っている。

 ところでチリ交は、わざわざ住宅地などを巡回してアナウンスし、声のかかった家庭まで古紙を取りに行くという、まことに効率の悪い回収を行っている。このような回収を行っているところへ、ごみステーションごとに大量の古紙が排出されたらどうなるか。法律上、咎めを受けることがないのなら、頂いていこうと考えることは当然であろう。

 問題はこのような状況を見越して、チリ交ならぬ、持ち去り部隊を組織して、大量かつ組織的に持ち去りを行う業者が出現したことである。彼らは東京など大都市で行政回収が始まると、ヤードや機材を拡充するとともに回収人を集め、組織的に活動を始めた。回収日を調べて、行政の回収車が来る前にステーションをまわる。おまけに新聞紙や段ボールなど品質の良い古紙だけを抜き取るものだから、行政回収の受託業者やその古紙を買い入れる契約をしている問屋は、予定通りの量と質の古紙が集まらないという事態も生じている。

 古紙持ち去り行為の問題として、以下のような点が指摘されている。@第三者のちん入により地域コミュニティの安全・安心が脅かされる、A「顔の見えない」不透明なリサイクルを住民は信頼できない、B@自治体の収益の横取り行為、C回収業者や古紙問屋にとっては仕入物の盗難にあたる、D信頼・協働関係の上に成り立っている日本の古紙リサイクルシステムを破壊する行為である。(「古紙抜き取り対策の手引き」関東製紙原料直納商工組合発行)

 持ち去り行為は昔から行われていたが量も少なく、定職のない人たちが日々の糧を得る行為として容認されてきた。しかし今日の持ち去り行為は、「ビジネス」として組織化された形で行われており、もはや看過できない状況になってきているのである。

持ち去り行為を法律で規制できるか

 持ち去り行為を法律で規制できるかどうかは、微妙なところである。集団回収のように、民間団体と回収業者が契約によって回収を行っているような場合は、古紙の売買をしているわけだから、これを勝手に持ち去れば窃盗罪になる。しかし自治体のごみステーションに出された場合は、廃棄する目的で出されたとみなされ、所有者のいないものとなって即座に窃盗罪に問うことは難しい。

 窃盗罪が成立するためには、他人の「財物」を窃取するという要件が充足されることが必要である。古紙持ち去り行為についてみてみると、第一に古紙が財物といえるかどうか、第二に持ち去りが「窃取」する行為にあたるかどうか、ということが問題となる。

 第一の要件について、古紙価格が高い時は有償で取引される商品と考えて財物といえるが、逆有償という事態になれば財物とはいえなくなる可能性がある。つまり市況によって財物となったりごみなったりする。

 第二に、窃取する行為とは、占有者の意思に反して不法に自分のものとすることだから、ステーションに出された古紙の占有者と占有の意思が明確であることが必要である。集団回収は、団体の活動資金を得るという明確な目的のもとに行われるために占有の意思は明確であるが、行政による分別収集はごみとして処分する目的で排出されたとみなす方が常識的で、少なくとも排出した側に占有の意思があるとは言いにくい。

 他方で、分別収集でステーションに古紙を排出することは単純に廃棄することを目的とした行為ではなく、行政の要請に従って住民が古紙を行政に譲渡する行為だと言うこともできる。外形的にも主観的にも窃盗罪を構成する要件を満たしているという見解もある。古紙問屋の団体である関東製紙原料直納商工組合は、古紙持ち去り行為について弁護士の助言のもと、以下のような見解を表明している。

 「古紙はひも等で束ねてあり分別収集に排出された古紙と特定できること(物の特定)、ステーションは一般公道に位置し行政の管理下にあること(場所の特定)から、ステーションに出された段階で古紙は行政の「事実的支配」に入ったとみなされます。」(客観的側面)、「分別収集に排出された古紙は、再利用を目的とするという住民と行政の共通認識の下、行政の管理下にあるステーションで行政に譲渡されます。住民がステーションに古紙を出した時点で、行政のその古紙に対する「支配の意思」を認めることができます。」(主観的側面)((「古紙抜き取り対策の手引き」関東製紙原料直納商工組合発行))

 しかしステーションに出された古紙を「行政の管理下にある」とみなすことには自治体の反対がある。ステーションに出された段階で行政の管理下にあるとみなされると、例えばその古紙に放火されたり、事故の原因になったりすると、行政の責任が問われることになる。また本来はステーションは地域住民が管理すべきで、ごみステーションの管理まで行政の責任とすることにも無理がある。

 このように古紙持ち去り行為を刑法上の犯罪として取り締まることは、現実には難しい課題がある。

持ち去り禁止条例の意義と効果

 古紙持ち去り禁止条例は、このような法律の隙間を埋めて、取り締まりや規制をしやすくするために制定されているが、条例の内容としては大きく2つのタイプがある。

 第一のタイプは、ステーションに出された古紙の所有権が行政にあることを明確にして、持ち去り行為が窃盗罪の構成要件を充足させるようにしたものである。このタイプの条例の嚆矢は奈良県桜井市の「廃棄物の処理及び再利用の促進に関する条例」(平成12年4月)である。同条例では、「資源物の所有権」(第10条の2)という条項を設けて、「前条第2項の規定により排出された資源物の所有権は、桜井市に帰属する。この場合において、市又は市が指定する者以外の者は、当該資源物を収集し、又は運搬してはならない。」と定めた。

 第二のタイプは、行政の指定業者意外にステーションからの古紙回収を禁止するとしたもの。古紙の所有権を明確にするには躊躇があるが、委託業者の権益やリサイクル事業の円滑な遂行を侵害する行為を禁止するものである。

[東京都杉並区]

 先述のように、東京23区では平成11年10月から「東京ルールT」と称して、ほぼ全区で古紙の行政回収が始まった(翌年度から清掃事業は区に移管された。)。古紙価格が上昇してきた平成14年頃から持ち去りが急激に増加し、対前年比で30%以上も持ち去られたという。特に価格の高い新聞だけを抜き取り、ダンボールや雑誌は散らかし放題という状況に区民の怒りが高まった。

 杉並区ではこれを地域の防犯など「安全・安心のまちづくり」の観点から対応していくこととし、警察や住民と連携したパトロールなどに取り組んだが、実効性のある対策として平成13年3月に「廃棄物の処理及び再利用に関する条例」を改正し、「所定の場所に持ち出された資源物の所有権は、杉並区に帰属する。この場合において、区長が指定する事業者以外のものは、当該資源物を収集し、又は運搬してはならない。」という規定を設けた。

 もちろん条文を活用するためには、具体的な活動がなければならない。ステーションに「行政回収に出したもので、所有権は区にある」と明示したシートを掲げてもらい、区民の意思表示を明確にした。これによって排出された資源の所有権関係が明らかになり、条例改正と相まって現場で指定外の業者を注意したり、区の所有権を主張することができるようになった。また区が雇用した警備員による巡回パトロールなども実施し、効果をあげている。

 平成15年12月には、警視庁杉並署はステーションから「古新聞2束と古雑誌2束(計39円相当)を盗んだ疑い」で、他区から来た回収人を書類送検している。(平成15年12月11日読売新聞速報)

杉並区の古紙分別ステーション「無断持ち去り厳禁」シート

杉並区の古紙分別ステーション

[東京都世田谷区]

 世田谷区は平成15年12月に廃棄物条例を改正して、資源ごみの持ち去り禁止規定を設けている。ただし窃盗罪の適用は難しいと判断し、持ち去り行為をしたことが直接犯罪になるのではなく、その行為の禁止命令を出して、その命令に違反した事が犯罪となる仕組みとしている。

 すなわち、@資源・ごみ集積所から資源を持ち去る行為を禁止する、A区は持ち去り行為をした者に対し禁止命令ができる、B命令違反者には20万円以下の罰金とする。

 違反者の処罰としては、命令違反者を区が告発し、送検、起訴、最終的には裁判により罰金刑が確定するという仕組みである。16年9月には、1〜3回の禁止命令を受けたが持ち去りを繰り返した5人の回収人を区が警察に告発し、送検している。(平成16年9月16日、毎日新聞)

[茨城県守谷市]

 茨城県守谷市は、平成15年12月に「廃棄物の処理及び再利用の促進に関する条例」を改正し、「所定の場所に持ち出された資源物の所有権は、守谷市に帰属する。」と所有権を明確にした上で、「この場合において、市長が指定する事業者以外のものは、当該資源物を収集し、又は運搬してはならない。」と規定している。この場合は、所有権の明記と指定業者以外の回収の禁止という二つの条項が盛り込まれているが、罰則規定はない。

 抜き取り業者を発見した場合、市から注意・指導が行われ、ケースによっては警察へ通報し、被害届を出すという手続きが想定されている。また、市の所有権を明確にするために、古紙類には「守谷市・氏名」を明記することとしている。

今後の課題

 条例が制定された自治体では、持ち去られる量が減り、効果をあげている。警察による検挙、書類送検の例も報道され、市民の関心が高まってきたということもあろう。

 行政に所有権があるということが明確になれば、警察が取り締まりに乗り出す根拠となる。しかし警察が常時こうした行為を取り締まることについては、他の犯罪とのバランスからみて行き過ぎだという批判もある。100キロの古紙を「窃取」したとしても、その売価はせいぜい500円、1トンでも5000円程度で、これを空き巣や窃盗と同様にみなして検挙することが社会的に容認できるかどうかがポイントである。実態としては(報道を見るかぎり)実刑判決が下された例はほとんどないようで、処罰されないのであれば期待されているほど抑止効果は上がらないのではないかという見方もできる。

 一方、罰金の方が抑制効果が高いという考えもある。世田谷区では20万円以下の罰金としているが、回収人の得る利益からすれば金額はそれなりに多額である。持ち去り行為は個人的な「仕事」というより、組織的に行われている実態からすれば、末端の回収人ではなく、彼らを雇用したり彼らから古紙を買い入れたりして利益を上げている業者を規制すべきである。しかし残念ながら、大元の業者を取り締まる根拠はなく、条例が制定された後も規制が緩いエリアを狙って、持ち去り行為は拡大している。

 古紙持ち去り問題の本質は、リサイクルを民間と行政がどのように協力、あるいは棲み分けするのかという点にある。行政回収は、チリ紙交換をはじめとする民間のリサイクル事業に対して多大な影響を及ぼしていることは事実である。自治体はこのような観点から、民間と競合するのではなく、相互に補完した仕組みを構築すべきだ。再生資源業界も事業の公共的性格を認識して、法的な取り締まりではなく、道徳的な観点から行動を律することがのぞまれる。回収人を取り締まるだけでは弱いものいじめになってしまう可能性もあるからだ。