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トイレはユニバーサルデザインまちづくりの生命線

代表取締役所長  山本 耕平

ユニバーサルデザインまちづくりにトイレは不可欠

 筆者は1985年に建築家や環境問題の専門家、医療関係者、行政関係者、トイレ関連企業などとともに「日本トイレ協会」を設立し、トイレ問題の調査研究や啓発活動など公共トイレ改善に向けた活動に取り組んできた。当初の課題は「汚い、暗い、くさい、怖い」という公共トイレの4Kの改善にあった。建物のデザイン、設備の改良、メンテナンスの改善などが主たる関心事であったが、活動を進める中で、身体に障害を負う人だけでなく、妊婦、高齢者、子ども、さらにはストレスによる「過敏性腸症候群」(神経性下痢症)に悩む人たちが大勢いることなど、「トイレ弱者」の存在に気づき、まちづくりの中でトイレの位置づけを高めていくことが必要であるという認識を持つようになった。

 人間は飲食は我慢できても、排泄は我慢できない。トイレの有無によって排泄行為が制限されるということは、行動そのものが制限されるということである。したがってトイレは全ての人が安心して行動できる、すなわちユニバーサルデザインまちづくりに不可欠な施設なのである。

車いすトイレから多目的トイレへ
多目的トイレ内部

聖蹟桜ヶ丘ショッピングセンター2階の「だれでもトイレ」
広さは2.4m×2.4m。
オストメイト用の汚物流し、シャワーヘッド付蛇口、着替え台、大人も使えるオムツ替え用ベット、介助者待機用カーテン等がついていて、改定ハートビル法の誘導基準にも交通バリアフリー法の望ましい基準にもクリアーしている。
(設計・写真提供:設計事務所ゴンドラ)

 車いすトイレは、かつては、駅などでは管理者が鍵を開けないと利用できなかったり、ある自治体では車いすの人に専用のカードキーを配布して利用を限定するなど、一般の利用を禁止するケースが少なくなかったが、最近は誰でも利用できるようになってきた。都営浅草線新橋駅の構内は、スペースの関係で「誰でもトイレ」と名付けた車いす対応トイレが1つだけ設置されている(改札外には一般のトイレもある)。 車いす対応のトイレは、スペースが広い(概ね2m×2m)ために、なかなか設置が進まなかった。さらにブースの不法占拠や、犯罪のおそれがあるなど、管理面での問題があった。そのために身体障害者に利用を限定してきた経緯がある。

多目的トイレを示すサイン

多目的トイレのサイン
右端がオストメイトを示すピクトグラム

 これを解決する方法として、車いすトイレを「多目的トイレ」にするというアイデアが生まれてきた。多目的トイレとは、着替え、おむつ替え、幼児用の小便器を設置するなどによって、身体にハンディキャップのある人以外も利用できるように工夫したトイレである。このようにして利用率を高めることで、管理上の課題解決にもつながり、限られた面積を有効に利用することになる。ハートビル法では「車いす使用者便房」の設置が規定されたが、多目的トイレの普及によって、具体的な設計標準としては乳幼児、オストメイトへも配慮した多目的トイレ(多機能便房)が推奨されるようになっている。オストメイトとは、直腸がんなどで腹部に人工的に排泄のための孔(ストーマ)を造設した人のことで、オストメイト対応トイレには、排泄物の処理、装具の交換や清拭・洗浄などができる設備が必要である。オストメイトマークも考案され、普及しつつある。

一般トイレのユニバーサルデザイン

 外出時にトイレを利用するシチュエーションは様々である。大きな荷物を抱えている場合もあれば、杖や傘を持ち込む場合もあろう。赤ちゃんといっしょに利用するケースも想定される。このような様々な利用形態に対応するためには、トイレの設備・設計全体にきめ細かな工夫が求められる。具体的には、収納式のベビシートを普通のブース内に設置したり、杖や傘を立てるためのフックの取り付け、男子小便器前に荷物棚を設ける、子どもの利用に配慮して床置き式の小便器にする、車いすや子どもの背丈で利用できる低い洗面台の設置などである。その他、小便器と床の段差をなくす(適切な幅の段差がある方が床は汚れにくいという研究もあるが)、視覚障害者のために入り口を知らせるチャイム、レバーを押しにくい人のための自動洗浄装置や手洗いの自動水栓など、最近のトイレにはきめ細かい配慮がなされるようになってきた。

 また施設によっては女性用のブースを多くしたり、子供専用のトイレを設置している例もある。道路公団では、トイレを3つに分けて女性客が多い場合には女性用ブースを増やす工夫も行われている。清掃についても、閉鎖して清掃する方式から、ブースや便器が空くのを待って順次清掃していく方式を取り入れているところも少なくない。我慢していつものトイレに駆け込んだら清掃中!という「悲劇」を避ける配慮である。 こうした設備、メンテナンスの工夫は、設計者や設備メーカー、メンテナンス業者、利用者が長年にわたってよりよいトイレのあり方を研究し、実践してきた成果である。

 トイレ単体ではなく、地域としてトイレ全体を使いやすくしていこうという動きもある。富山県の市民団体の環日本海トイレフォーラムでは、県内市町村、観光地のトイレマップを作成してホームページで公開している。このマップには、トイレの位置、設備が細かく掲載されていて、オストメイトや車いす利用者が旅行するときなどには特に便利だ。  トイレがユニバーサルデザインまちづくりにとって重要であるという認識は、かなり広がってきているように感じている。今後はトイレの配置や数を含めて、面的な整備にコマを進めることが望まれる。

東京駅1階飲食街・キッチンストリートのトイレ

有料トイレ入り口「だれでもトイレ」

快適さと防犯対策の両面から有料トイレも増えつつある。多機能トイレを入り口付近に設置し(奥には普通のブースもある)、管理人が常駐する。
写真右は「だれでもトイレ」。
(設計・写真提供:設計事務所ゴンドラ)