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ベトナム・ホイアン市の3Rの取り組み−草の根技術協力の成果

代表取締役所長  山本 耕平

はじめに

 JICAがベトナムのハノイで展開している3Rプロジェクトは、ベトナムの各都市がもっとも注目している事業の一つである。経済成長著しいベトナムでは、都市部の廃棄物の増加が国家的課題になっている。JICAの資料によると、2003年時点においてベトナム全体で1年間に発生する廃棄物は1,500万トン、うち1,280万トン以上がホーチミン市やハノイ市を含む都市から発生している。これらの廃棄物は、約30%が回収されずに道路上に放置されたり湖沼等に不法投棄されたりして、環境汚染を招いているという。そのためベトナム政府は、廃棄物対策を重要課題と位置づけている。

 このような国家戦略に基づいてハノイ市は3Rの取り組みをスタートさせており、JICAではこれを支援するために2006年から生ごみ分別収集とコンポスト化や環境教育の技術協力プロジェクトを実施している。

 本稿で紹介するホイアン市の例は、実はハノイの事例とは何の関係もない。廃棄物関係のODAのモデルの一つとされているハノイに対して、ホイアンはNGOによる草の根技術協力の事例で、専門家が乗り込んで現地機関に技術と資金を提供して進める国際援助とは異なり、現地機関の人材を養成して日本の経験やノウハウを持ち帰ってもらい、地域の実情に応じた取り組みを促すという取り組みだ。

 筆者は、今年(2010年)の1月に実施主体である沖縄のNGOのテクニカルアドバイザーとして現地を見学し、当局の担当者や現地の住民の人たちと意見交換をする機会を得たので、見聞したところを紹介したい。

1.固形廃棄物3R啓発推進プログラム(那覇モデル)の概要

 この事業は「固形廃棄物3R啓発推進プログラム」と題され、JICAの「草の根技術協力事業」として2008年から2011年までの3年間実施されている。実施主体は沖縄リサイクル運動市民の会と那覇市で、ベトナム・ホイアン市とマレーシア・コタキナバル市の行政職員等の研修事業と専門家派遣による支援を行っている。

 なお草の根技術協力事業とは、国内のNGOや大学、地方自治体等がこれまでに培ってきた経験や技術を活かして企画した、途上国への協力活動をJICAが支援し、共同で実施する事業のことで、本件の場合はJICA沖縄になる。

 いずれの都市も人口増や大量消費型ライフスタイルへの移行、環境意識の低さ、廃棄物管理計画策定の遅れなどから廃棄物問題が顕在化している。沖縄は観光地であることや気候などの面でこれらの地域と共通点が多い。那覇市に拠点を置く沖縄リサイクル運動市民の会は、那覇市と連携して環境教育やレジ袋削減などに多大な成果を上げてきていることに加えて、農家とタイアップして生ごみ飼料化を事業化するなど長年にわたって3R活動を先導する役割を果たしてきている-1) 。こうした官民協働の取り組みを「那覇モデル」と名付けて、アジアの類似都市への技術協力に取り組むことになったものである。

 具体的には、毎年それぞれの都市の行政やNGOスタッフを沖縄で研修し、その成果の点検と助言のために専門家を派遣するという形で進めている。プログラムには、沖縄のごみ処理や3Rの取り組みの実例を学ぶほか、沖縄リサイクル運動市民の会が開発したごみ教育プログラムである「買い物ゲーム」-2) のファシリテーター研修、家庭での生ごみコンポストの実地研修などが組み込まれている。研修場所の沖縄国際センターの片隅で、研修生が毎日食堂から生ごみをもらってきて段ボールコンポスト(段ボール箱を利用した生ごみ堆肥化)をつくるなど、NGOならではのユニークな研修も好評である。

 こうして沖縄で学んだことがどのように活かされているのか。ホイアン市でみた成果を紹介しよう。

2.ホイアン市の概要

 ホイアン(Hoi An)市はベトナム中部の港湾都市ダナンの南30kmほどに位置する港町で、中国人街の古い建築が残り、その歴史的な町並みが1999年に世界遺産に登録された。16世紀の阮朝の都・フエとの外港として栄え、日本の朱印船が寄港した町である。当時、ホイアンには大規模な中国人街や日本人街が形成され、ホイアン市のシンボルとして知られる屋根付き橋(来遠橋)は日本人が建設したといわれ、日本橋とも呼ばれている。郊外には日本人の墓地もあり、市の人民委員会委員長によると未だに現地の住民によって祀られているという。

 人口は10万人に満たないが、100万人近い観光客が訪れる。海辺のリゾートとしても知られている。市街地はコンパクトで小さく、郊外は農業地域である。沖合にはチャム島という3000人くらいの人口の島がある。

 廃棄物の担当は政策を担当する天然資源局と収集を担当する土木公社である。ベトナムの行政組織は中央政府の下にハノイ、ホーチミン、ダナンなどの中央直轄市と省があり、中央直轄市や省の下に郡、県、市があり、さらにその下に町村がある。各地方行政単位には、地方議会としての役割をもつ人民評議会(People's Council)と地方行政機関としての役割をもつ人民委員会(People's Committee)が設置されている。天然資源局は人民委員会の執行機関ということになり、市長に相当するのが人民委員会委員長である。

ホイアン市のシンボル「日本橋」

ホイアン市のシンボル「日本橋」

3.ごみ処理の現状

 ホイアン市ではほぼ毎日、家庭ごみの収集が行われている。観光客が多い旧市街地は1日3回収集している。市の説明によるとごみの排出量は日量45トンである。市街での収集はパッカー車やトラックで行われており、基本的に各戸収集である。ごみ収集は有料で月に1万ドン(日本円で約50円)。担当者が毎月、各家庭を回って集金している。

 収集作業は「ホイアン公共事業会社」が行っており、パッカー車8台と手押し車40台を保有する。手押し車は旧市街地の車が入れないところでの収集を行うためのものである。

 分別はほとんどされておらず、混合した状態で排出される。容器も特に定められていない様子で、適当な容器や袋に入れて出されている。観察したところ、ごみの中身はほとんどが生ごみで、プラスチックの袋や包装材が目立つ。PETボトルなどの容器類は資源回収人に売却するか、ごみとして出されたものはたいてい誰かが持ち去っている様子である。

 収集したごみはそのまま郊外の埋立処分場に搬入される。処分場は9000?あるが、平地にオープンダンプ方式で覆土はほとんど行われていない。したがって堆積したごみの山が7〜8mになっている。

 処分場には途上国の例にもれず、資源物を回収する人がいる。ただしホイアンの場合は、近郊の農家など許可を得たものだけがアルバイト的に行っているということで、数名の人影が確認できただけであった。

 ついでながら、中部の大都市ダナンは人口が約80万人もいるだけあって、処分場はオーストラリアの援助でつくられた汚水処理施設を備えた本格的なもので、医療廃棄物と塗料などの有害廃棄物の焼却炉も2基ある。一般廃棄物は市内にコンテナが6000個設置されていて、反転式のパッカー車で収集する。作業は公共事業公社が行い、公社の従業員は1000人もいるというから、こちらは先進国並みだ。

 これに対してホイアンは町が小さいために全体的に遅れている。処分場はほとんど「ごみ捨て場」で、汚水処理もされていない。ごみの中身は生ごみとプラスチックだ。古紙やペットボトル、缶、びんなどはほとんど出ない。民間でリサイクルされているということだろう。目立つのは食品の袋などと生ごみである。フランスの支援でコンポスト工場建設の計画があるということだが、生ごみとそれ以外のごみをどう分別するかが課題である。焼却に対しては「環境を汚染する」というイメージが強く、市として導入する考えはないということであった。

 ホイアン市は2015年までにごみ量を30%削減する目標を掲げている。また3R推進のために環境教育を推進するとしており、施設や制度面は不十分でありながらも、3Rを政策の指針として掲げていることについては感心した。

ホイアン市の埋立処分場

ホイアン市の埋立処分場

4.チャム島のプラスチック袋を使わないプロジェクト

 チャム島はホイアンから東へ約19kmの場所にあり、総数8つの島からなるチャム諸島(Cu Lao Cham)で最大の島である。最近まで軍の管理下におかれていたため、原生林が生い茂る豊かな自然が残されており、最近ホイアンからチャム島を訪れるツアーが人気を集めているという。

 チャム島の人口は約3000人で、主に漁業で生計を立てている。チャム島周辺は海洋保護プロジェクトの保護海域に指定されており、ごみ問題にも特に関心が高い地区でもある。

 ベトナムでも商品の包装にはプラスチック袋(いわゆるレジ袋)が多用されており、この島でも市場で使われるほか、観光客の持ち込みなどで処理に困っていた。ちなみにチャム島にはごみ処理施設はなく、収集したごみを船で本土に運んで処理されている。ホイアンから船で1時間足らずの距離だが海が荒れることも少なくないため、ごみ減量は大きな課題である。さらにプラスチックバッグが海に流れて浜に打ち上げられたり、海洋生物の生態系にも影響が出かねないという問題もあった。

 沖縄県では沖縄リサイクル運動市民の会などの働きかけもあって、全国でも早い時期からレジ袋削減に取り組み、主要スーパーでは全県有料化を実施している。このような沖縄の取り組みに啓発された研修員が、帰国後すぐにチャム島でのレジ袋全廃に着手した。具体的には2009年の5月に説明会を40回開催し、学生ボランティアを使って各家庭のごみの調査を実施するなどの取り組みを通して住民の意識啓発を図った。その後、各家庭には2個ずつ買い物かごを配布して、市場でのプラスチックの袋の利用を禁止した。現地では市場の買い物には全員が赤い買い物かごを持ち、肉や魚を包む包装材にはバナナの葉っぱなどの自然素材が使われていた。

 結果、島内ではプラスチック袋はほぼなくなり、海岸に打ち上げられる袋がほとんどなくなったという。またごみの量も大幅に削減されたと担当者は評価している。

プラスチック袋削減のスローガン

チャム島の市場の入り口にはプラスチック袋削減のスローガンが描いてある

5.家庭でのコンポストの普及

 ホイアン市の職員の説明の中で、「Before OKINAWA」「After OKINAWA」などと言う言葉がたびたび出てくることに驚いた。沖縄研修の前と後という意味である。「研修の前はこうだったが、研修で学んでこのように改善した」という意味で使われる。そのAfter OKINAWAのもう一つの例が、家庭での生ごみコンポスト化である。

 沖縄の研修では沖縄国際センターに滞在中に段ボールコンポストを実地に体験するとともに、那覇市の職員宅のコンポストなどを見学するプログラムがある。段ボールコンポストではコンポスト化容器として段ボールを利用する。容器代がかからないことと紙が水分を吸って水分調整の役割も果たす。水分調整材としてもみ殻を加えて毎日適度に攪拌すると分解が促され、きれいな堆肥ができる。コツさえつかめば簡単な方法で、研修生は一様にこの方法に感激するという。日本には家庭用のコンポスト容器があり、かなり普及しているということを学んで、ホイアン市ではモデル地区で実験を実施している。

 モデル地区は2009年9月から60世帯でスタートし、400世帯を目標とし、結果を見てさらに拡大する計画になっている。バケツの底に水抜きの穴を開けた特製の容器を各家庭に3個ずつ配布し、家庭から発生する生ごみを堆肥化する。人民委員会委員長も自宅で行っており、簡便でごみ減量効果が高い方法だと手放しの評価だった。

 大規模なコンポストプラントが建設される予定だが、生ごみだけを分別する習慣をつけるという意味でも、家庭でのコンポスト化は有効だというのが、当局の見解である。技術系の職員がベトナムの気候にあった方法を研究しており、マニュアル化して全市普及に努める方向だという。

6.エコシティ・ホイアンの課題

 After OKINAWAとしてホイアン市が動き出そうとしているのは、次は環境教育である。「買い物ゲーム」のプログラムは、すでにマレーシア版がつくられて現地のNGOなどが実施している。買い物の仕方が日本とホイアンでは違うので、まだこのプログラムは実践されていないが、2010年まで買い物ゲームを含めた環境教育プログラムを作成して教師の研修を行い、2011年から全校で実施する予定だ。

 ホイアン市は2009年12月にエコシティを宣言して、環境問題への取り組みを市政の重要課題として位置づけた。具体的な方策として、@天然資源と環境を大切にする、Aプラスチック袋の削減、B家庭での生ごみの堆肥化、C環境教育の推進、D事業ごみの適正処理、E市民への3R意識の啓発などが提案されている。これらの施策メニューは沖縄で学んだ成果だということだ。

 ちなみに廃棄物関係以外では、F環境情報システムの構築、G交通環境(特にばいじんなど)対策、H旧市街地の騒音対策(カラオケ、車・バイクの騒音など)、I公害発生源となっている工場の郊外移転、J雨期の浸水地区の対策、K緑地保全、L海岸の浸食対策、M生活排水対策、があり、政策の柱として14項目があげられている。

 ただそれをどうやって解決していくのか、その道筋がみえない。海外の援助頼みという本音も見える。「ハノイの次はぜひ我が町へ」という言葉をダナンでもホイアンでも聞かされた。ハノイの3R支援事業はベトナムの各都市にとって垂涎の的のようだ。

 行政が下流の処理体制を整えることが重要であることは論を待たないが、施設が整備されると問題は解決するという思い込みが大きな問題だ。

 日本橋の下を流れる小さな川は白濁して異臭を放っている。問題を指摘しても下水道が完備しないことが原因だという。日本でも同様の経験をしてきたが、その対策としてできるだけごみを排水に流さないようにすることや、排水路をこまめに清掃することなど、家庭や地域での取り組みも重要であることを知っている。言い換えれば、市民の環境意識の向上と小さな行動の積み重ねが大事であると言うことをわれわれは学んできた。こうした経験を伝えることも、国際協力にとっては重要なことだ。

 沖縄リサイクル運動市民の会が3Rの草の根技術協力として行ってきたことは、まさにこのような視点とソフトな技術であり、短期間に目を見張るような成果をあげている。今後の技術協力の一つのあり方として評価できよう。


  • 1) 沖縄リサイクル運動市民の会の活動および那覇市の廃棄物政策との関係については、「日本の3R制度・技術・経験の変遷に関する研究」(平成20年度廃棄物処理等科学研究報告書)pp105「4.3Rにおける市民活動の変遷と政策形成における役割」を参照されたい。
  • 2) プログラムの詳細は「Eco・エコ 買い物ゲーム―ごみを減らす体験学習プログラム」(山本耕平、古我知浩、福岡智子著、合同出版刊)を参照されたい。