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3Rガバナンスにおける産業界の活動の変遷と役割
(容器包装問題を中心に)

代表取締役所長  山本 耕平

はじめに

 本稿は環境省の循環型社会形成推進科学研究費補助金による「日本の3R制度・技術・経験の変遷に関する研究」(平成20、21年度、研究代表八木美雄)の中でとりまとめた企業・産業界に関する論考をふまえ、容器包装問題を中心とする「3Rガバナンス」の構築と産業界の関係に関して若干の考察を試みたものである。

 ガバナンス(Governance)とは「個人と機関、公と私が、共通の問題に取り組む多くの方法の総体」-1) である。別の表現をすれば、社会を構成する多様な主体が利害を調整し協働しながら、社会を統治・管理していくことである。ここから敷衍して、多様な主体が関わって廃棄物の3Rを進める仕組みを3Rガバナンスということができる。わが国の循環関連諸法では、製品や廃棄物の特性に応じて各主体が役割や責任を分担して3Rに取り組むことが規定されており、3Rガバナンスは前進したといえる。本稿では「空き缶問題」が顕在化した1970年代から、95年の容リ法制定と06年の改正までの一連の経緯における産業界の対応と3Rガバナンスにおける役割について考察した。

1.空き缶問題と業界の組織的活動

 ごみ問題は70年代に大きな社会問題となったが、使い捨て商品の象徴としてもっとも関心を集めたのが空き缶問題である。自動販売機の普及とともに缶飲料の販売量が急速に伸び、空き缶のポイ捨てが大きな社会問題に発展した。73年に町田市や三鷹市では空き缶の回収を条例で事業者に義務づけた。実質的には訓示規定にとどまらざるを得なかったものの、廃棄物に対する事業者責任を明文化したという点できわめて重要な意義があった。

 こうした問題が顕在化するやいなや、業界はそれぞれ団体を組織して対応に乗り出している。プラスチック容器包装が増えてきたのもこの頃からで、71年には「プラスチック処理促進研究協会(現プラスチック処理促進協会)」が設立された。また製缶業界最大手の東洋製罐は、長野県霧ヶ峰において生態学の手法を応用して空き缶散乱の実態を明らかにし、観光客を空き缶回収拠点まで誘導するシステムの社会実験(「カンコロジー」と名付けた)を行った-2) 。これは散乱ごみに関する研究調査としてわが国で初めてのものである。73年にはアルミ精錬・圧延、製缶業界が中心となり「オールアルミニウム缶回収協会」(現アルミ缶リサイクル協会)が設立され、製缶業界、鉄鋼業界が中心となって「あき缶処理対策協会」(現スチール缶リサイクル協会)が設立された。また、食品、酒類、清涼飲料の業界による「食品容器環境美化協議会」(現(財)食品容器環境美化協会)が設立され空き缶問題に対応する体制ができた。

 空き缶問題における事業者責任はその後も大きな論議となり、京都市で「デポジット制度」の導入が提起された。関東地方知事会、九州地方知事会等も空き缶問題を重要な政策課題として取り上げ、81年1月には環境庁に「空き缶問題11省庁連絡協議会」が設置される等、空き缶問題はごみ問題のシンボリックなテーマとなった-3) 。

 業界団体の具体的な活動をみると、啓発活動のほか、あき缶協と食環協は「カンコロジー」を継承して、空き缶散乱の実態調査やポイ捨て防止のための社会実験を事業の柱として取り組み、あき缶協とアルミ缶協は、集団回収の調査や支援に乗り出した。当時はまだ自治体による分別収集はほとんど行われておらず、集団回収が空き缶回収のほとんど唯一のルートであったからである。こうした調査研究や実験事業を通して得た情報は、報告書や出版物などの形で公表された。当時、空き缶問題は社会的関心を集めていたにもかかわらず、行政による調査研究はほとんど行われていなかった。ましてや学術研究の対象ともなっておらず、海外情報も含めてほとんどの調査研究は空き缶関係団体によるものであった。こうした活動を「業界の責任逃れのための活動」と批判する意見がなかったわけではないが、様々な調査研究、実験によってもたらされたデーや情報は、自治体にとってもきわめて有用な情報として活用され、特に初期の段階では政策の検討に大いに貢献したことは評価すべきである-4) 。

2.容リ法制定と業界団体の役割

 業界と自治体の意見が対立したデポジット制度については、80年代の半ばに事業者の費用分担による美化組織の設立(京都市環境美化事業団)や観光地等でのローカルデポジット導入というかたちで収束した。一方、70年代半ばから沼津市や善通寺市などから始まった資源の分別収集が中小都市を中心に拡大していった。バブル景気によってごみ量が急増するとともに古紙等の再生資源価格が暴落したことで、資源分別収集を行う自治体が増えた。高度成長時代に次ぐ第二次ごみ戦争といわれる事態に対して法の不備が指摘されるようになり、91年に廃掃法改正とリサイクル法が制定された。さらに容器包装リサイクルの法制化についての検討が開始され、93年に容器包装リサイクル法が制定された。

 容リ法制定において業界団体が果たした役割として、@容リ法の下敷きとなった資源分別収集のシステムや技術開発、自治体への普及に大きく貢献したこと、A企業が応分の責任や役割を分担していく上でのコンセンサス形成に寄与したことの二点をあげることができる。@については、例えば当時のあき缶協は先進的な自治体とタイアップして自治体職員の交流研修会である「廃棄物資源化研究会」を支援して毎年3〜4回開催している。空き缶等の分別収集のノウハウ交換を目的とする研究会で、そこで集めた事例をもとに分別収集の技術マニュアル等を発行している-5) 。またガラスびんリサイクル推進連合(現ガラスびんリサイクル促進協議会)は、「空きびんポスト」によるガラスびん回収実験やガラスびんの分別収集マニュアルを発行している。

 Aについては拡大生産者責任をめぐるコンセンサス形成過程である。廃掃法では一般廃棄物の収集、処理は市町村の責務と規定されているが、容リ法ではその処理(再商品化)の責任の一部を事業者に分担させたことに大きな意味がある。先行するドイツやフランスの制度を参考にして、拡大生産者責任についての議論が行われたが、すでに資源分別収集が広く普及していたことから、回収した容器包装廃棄物のリサイクルコストを負担するという形で決着した。事業者が一定の責任を負うことについて大きな反対の動きはなかった理由として、缶・びんの業界団体は長年にわたって自治体のリサイクルを支援し、これまでの調査研究やモデル実験をとおして、事業者が一定の役割を果たすことが不可避であること、そのためには費用負担の仕組みを制度化することが必要であるという考え方が業界団体を通してコンセンサス形成されていたためである-6) 。また産業界全体の意見のとりまとめ役として経団連の存在があった-7) 。

3.容リ法改正と経団連の役割

 容リ法は、容器包装の素材ごとに規定があるため、それぞれ対応するための組織を設立した。PETボトルについてはすでに「PETボトルリサイクル推進協議会」(93)が設立されていたが、後発の団体として「プラスチック容器包装リサイクル推進協議会」(98)、「飲料用紙容器包装リサイクル協議会」(97)、「その他紙製容器包装リサイクル協議会」(98)、「段ボールリサイクル協議会」(2000)が設立され、スチール缶、アルミ缶、ガラスびんを加えて8団体になった。

 容リ法は04年6月から見直しの作業が始まり06年6月に一部改正された。改正議論の中でもっとも大きな論点となったのは市町村と事業者との費用負担の見直し問題であった-8) 。一方自治体と産業界の意見対立だけでなく、産業界の中でもスーパーマーケット業界から業界間の負担の不公平さが主張されるなどの意見の相違が表面化した。この背景には容リ法によって影響を受ける業界の裾野が広がったことや素材別に8つの団体ができたことで産業界としての見解をまとめにくくなったこと等がある。

 8団体は構成メンバーの違いから、容器包装のユーザーが発言力を持つ団体と素材供給業界や容器メーカーが主導権を持つ団体があり、それぞれ考え方に相違があるという側面も否定できない。しかし企業間の競争や利害対立がそのままガバナンスの場に持ち込まれることは望ましくない。ある程度は利害や意見が一致したグループとして行動することが望まれる。そのためには業界間の意見をとりまとめる機能や役割が必要とされる。このような役割を果たしたのは(社)日本経済団体連合会(経団連)であった。経団連として事業者負担の増大に反対することは予想されたことであったが、同時に「制度全体に係る社会的総コストを低減させながら、いかに排出抑制を実現し、全員参加型の容器包装リサイクル制度を実現するかの観点」から容器包装の素材グループごとなどの業界別に、容器包装の3R推進に向けて「自主行動計画」を策定し実施する-9) 、という内容を骨子とする提言書をとりまとめて公表し、改正案の検討に大きく影響した。

4.まとめ

 容器包装廃棄物の3Rガバナンスにおいて、産業界の果たした役割を整理すると以下のようにまとめることができる。

@問題の顕在化に応じて廃棄物対策を専門とする団体を組織した
 空き缶等の問題が顕在化するや否や、容器メーカー、飲料メーカーは自らが生産する廃棄物対策に取り組むための団体を立ち上げたことは、特筆しておく必要がある。

A調査研究や社会実験を通して政策提言活動を行ってきた
 各団体は活動目的の柱に調査研究活動を置き、行政や学界に先んじて容器包装廃棄物のリサイクルに関する調査や様々な社会実験を行った。調査研究の成果を広く共有することによって政策論争に寄与をした。

B市町村の分別収集普及を支援してきた
 業界団体が分別収集の普及に果たした役割は大きかった。資源分別収集の普及に国はほとんど関与してこなかったが、業界団体が自治体のノウハウや技術開発に大きく貢献し、また施設整備に対する補助なども行っている。

C廃棄物問題に対する産業界の方針を定める上で経団連の役割が大きかった
 産業界として一定の方向を示し業界間の利害調整機能を果たしたのは経団連であった。産業界のナショナルセンターである経団連は3Rガバナンスの中で重要な役割を果たしている。


  • 1) Our Global Neighborhood(Report of the Commission on Global Governance,Chapter One - A New World,1995)
  • 2) 「カンコロジー入門」(霧ヶ峰プロジェクトチーム編集、1973 講談社サイエンティング発行)
  • 3) 「空き缶問題の背景と経緯」環境庁空き缶問題研究会(『事例に見る空き缶対策−広がる自治体・市民の実践』pp14、環境庁空き缶問題研究会監修・地域交流センター編、1987地域交流出版刊)
  • 4) 業界団体の初期の活動については「分別収集・資源化処理への道」(登坂耕作・佐藤亮、2002日報出版刊)に詳しい。
  • 5) 市町村職員の研究交流会である廃棄物資源化研究会は76〜2000年まで延べ78回開催。「スチール缶リサイクルマニュアル−資源化施設の計画と技術」(95)、「分別排出と分別収集の方法と技術」(97)などを発行している。
  • 6) 例えば93年8月に業界団体の主要構成の副社長、環境担当部長クラスによって「マルチリサイクルシステム共同研究会」が発足し、94年8月のまとめでは、「自治体の分別収集を前提に、自治体により回収・中間処理された容器・包材を一定の条件や規格のもとに関係産業界が引き受け、リサイクルを行う」と述べている。このレポートは公表されなかったが、経団連の見解とりまとめに反映され、容リ法制定に影響を及ぼしたものと思われる。
  • 7) 94年6月に経団連は「一般廃棄物の減量化・リサイクル推進に関する検討報告書」をとりまとめ、ドイツ、フランス式をそのまま導入することに対しては異論を述べているが、再生資源の引き取りや再生利用促進については産業界として協力すべきという趣旨が盛り込まれている。
  • 8) 環境省の調査によると市町村の分別収集と選別保管費用は約3,000億円(平成15年度)で、特定事業者の再商品化費用は約400億円と推計している。(中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会(第37回)資料)
  • 9) 意見書ではリサイクル率、単一素材化などのリサイクルのし易さ、詰め替え容器、リターナブル容器の普及、自主回収率、集団回収率等について2010年度を目標年次として数値目標を掲げた自主行動計画を策定するとしている。