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NGOによる3R経験の移転
(ベトナム・ホイアン市におけるケーススタディ)

代表取締役所長  山本 耕平

1.はじめに

 本稿は環境省の平成22年度循環型社会形成推進科学研究費補助金による「アジア諸国等への日本の3R体験の移転促進に関する研究」(研究代表八木美雄)の一環として行ったケーススタディのうち、NGOによる取り組み事例−沖縄リサイクル運動市民の会(Okinawa Citizen’s Recycling Movement 、以下OCRMと略す)がベトナムの小都市ホイアンで実施している草の根技術協力事業−について考察したものである。事業の概要を表1に示す。

表1

表1 事業の概要

2.沖縄リサイクル運動市民の会の概要

 1983年に設立された団体で、沖縄県ではもっとも影響力のある市民活動団体である。OCRMの活動は、@フェアトレードや環境商品の販売などの事業活動、A環境学習施設等の運営(指定管理者)、B環境ビジネスのインキュベート、C環境教育や啓発活動、D市民活動の支援、E調査研究や政策提案活動などがある。近年では、F国際協力活動が新たな活動分野として加わり、幅広い活動を展開するようになっている。OCRMの組織の特徴は、ネットワーク型であるということである。コア・スタッフは数名で、ボランティア・スタッフやプロジェクトごとに様々な人材が関わる形で多様な活動を展開している。(注1)

3.ホイアン市の概要

 ホイアン(Hoi An)市はベトナム中部の港湾都市ダナンの南30kmほどに位置する港町で、かつて朱印船が寄港し大規模な中国人街や日本人街が形成されていたとされ、日本橋とも称される屋根付橋がある。中国人街を中心とする歴史的な町並みが1999年に世界遺産に登録され、人口約9万人に対して欧米人を中心に年間約120万人もの観光客が訪れている。

ホイアン市の位置

ホイアン市の位置

 ホイアン市では2009年12月に「ホイアン市エコシティ宣言」として、地球温暖化防止、自然保護、地域の大気環境改善、水質保全、騒音防止、廃棄物対策など14の政策目標を掲げた。廃棄物対策としては、@プラスチック袋の削減、A家庭での生ごみ処理、B環境教育の実施、C事業系ごみの適正処理、D市民への3Rの意識啓発があげられている。また2015年までにごみ量を30%削減する目標を掲げている。

 ホイアン市は郊外の農村部をのぞいてほぼ毎日ごみの収集が行われている。市の説明によるとごみの排出量は、2008年は45t/日、2010年には56t/日に増加している。市街での収集はパッカー車やトラックで行われており、基本的に各戸収集、混合状態で排出される。容器は特に定められておらず、適当な容器や袋に入れて出されている。収集したごみはそのまま郊外の平地の処分場に捨てられている。すでに満杯状態で、堆積したごみの山が7〜8mになっている。処分場には途上国の例にもれず、資源物を回収する人がいる。ただしホイアンの場合は、近郊の農家など許可を得たものだけがアルバイト的に行っている。2011年1月時点で、フランスの支援によるコンポストプラントの建設が進んでおり、同年中には完成、稼働予定である。

表2

表2 ホイアン市のごみ処理の概要

4.協力事業の内容

 草の根協力事業の具体的な内容は、ホイアン市の行政や公社の職員を沖縄で研修し、その成果の点検と助言のために専門家を派遣するという形で進められた。沖縄は琉球王朝の時代からベトナムとの交流があったとされ、日越貿易の拠点でもあったホイアンとは関係が深かったといえる。ホイアンとの協力はこうした歴史的背景をふまえて検討されてものであるが、事業の実施に際しては事前にOCRMが現地調査を行い、ホイアンの現状を踏まえて研修プログラムを作成した。研修の特徴的なプログラムとして、家庭での生ごみコンポストの実地研修、学校での環境教育としてOCRMが開発した「買い物ゲーム」(注2) のファシリテーター研修などが組み込まれている。

5.沖縄の経験の移転−協力事業の成果

@レジ袋の削減

 ベトナムでも商品の包装にはレジ袋が多用されており、その処理が問題となっている。沖縄の取り組みに啓発された研修員が、帰国後すぐにレジ袋削減に着手した。ひとつはホイアンの東海上にあるチャム島(人口は約3000人)で、市場で使っていたレジ袋を全廃した。チャム島の成果を受けて旧市街地でのレジ袋削減に着手し、市民へのPRの徹底だけでなく市場の営業人をグループ化しグループ長を通じて啓発したり、誓約書を提出させるなど袋の削減とごみの適正排出(決められた場所に排出する)を義務づけた。

A家庭でのコンポストの普及

 ホイアンでは農村部、人口の30%程度はごみ収集が行われておらず、自家処理となっている。そのため家庭での生ごみコンポスト化は、自家処理の方法として関心が高い。また都市部でもコンポストプラントの稼働に向けて、生ごみ分別収集の必要性が認識されつつあり、そのための手段として一時的に家庭でコンポスト化する方法が模索されている。ホイアン市では研修をふまえて独自のコンポスト容器(バケツの底に穴をあけたもの)を工夫し家庭に配布、モデル実験を行っている。モデル地区を1000世帯まで増やし、マニュアル化して全市普及に努める方向である。

B3R教育

 ホイアンではスーパーマーケットなどはなく、市場で対面で買い物をする。日本とは買い物の仕方が違うのでOCRMが開発した「買い物ゲーム」のプログラムをホイアン版にアレンジする作業が現地の青年海外協力隊ボランティア隊員などによって進められ、また子ども環境クラブなどのグループ活動の推進、子供向け3Rゲーム(すごろくゲーム)などの実施、学校での3Rワークショップ、教師向けのテキスト、アクティビティ(学習プログラム)開発を行っている。

6.考察

 本件はあくまで日本の3R経験の移転に関するひとつのケースにすぎず、一般に敷衍して論ずることができるものではないかもしれないが、特徴的あるいは成功の事由として考えられることを以下に整理しておきたい。

@両者の友好関係

 第一は、ホイアンは歴史的に親日的で、沖縄と気候風土や食文化、食材などに共通するところがある。こうしたことを背景としてOCRMと那覇市、ホイアン市の間には非常に親密な関係が構築された。双方の信頼関係によって研修後も人と情報の交流が行われ、研修の効果をより高めることに寄与している。

A組織ぐるみの研修

 第二は、OCRMが「組織を丸ごと研修する」という戦略にもとづいてカウンターパートの廃棄物担当の主要職員のほぼ全員と関連部署のキーパーソン(計7名)が研修を受けたことである。このことによって那覇市あるいはOCRMの経験(失敗も含めて)が政策立案担当者の間で共有され、沖縄の経験を参考にした新しい政策導入が容易になった。

B3Rガバナンスの重要性の理解

 第三に、研修を通して適切な廃棄物管理、3Rの推進のためには、行政だけでなく事業者やコミュニティ、市民を含めた3Rガバナンス(多様な主体が関わって廃棄物の3Rを進める仕組み(注3))の確立が重要であることが理解されたことである。ホイアン市では日本と同様に、地域コミュニティや市場の事業者グループのワークショップ、学校での教育など、きめ細かい啓発、環境教育を行っている。

7.まとめ

 途上国では廃棄物処理施設に対する過度の期待がある。ホイアンでもコンポストプラントが完成すれば、ごみ問題の大半は解決するという考えがあるが、かなり無理があることはいうまでもない。今日の日本の廃棄物処理を特徴付けるものは排出源での徹底した分別であり、回収したものをリサイクルするためのシステム、技術開発の責任や役割を、市民と行政、事業者でシェアする仕組みと、それを運用するあるいはそれぞれのステークホルダーの意識である。

 ただしODAとして実施されている研修では公的機関やそれに準じる機関のスタッフに限られており、例えばリサイクル業者のような民間セクターを研修することはほとんど行われていない。3Rガバナンス確立のためには公的機関だけでなく市民組織や事業者などの民間の人材育成も重要な課題であり、行政職員だけでなく、現業部門、事業者、市民リーダー、リサイクル業者など、多様なステークホルダーに対してそれぞれの経験を伝えていくことが求められる。


  • 注1) 沖縄リサイクル運動市民の会の活動および那覇市の廃棄物政策との関係については、「日本の3R制度・技術・経験の変遷に関する研究」(平成20年度廃棄物処理等科学研究報告書)pp123参照
  • 注2) プログラムの詳細は「Eco・エコ 買い物ゲーム―ごみを減らす体験学習プログラム」(山本耕平、古我知浩、福岡智子著、合同出版刊)を参照されたい。
  • 注3) ガバナンス(Governance)とは社会を構成する多様な主体が利害を調整し協働しながら、社会を統治・管理していくこと。ここから敷衍して、多様な主体が関わって廃棄物の3Rを進める仕組みを3Rガバナンスということができる。