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代表取締役所長 山本 耕平
リサイクル関連法の制定や自治体の資源分別収集の拡大にともなって、再生資源の余剰、価格低落が大きな問題となっている。故繊維も例にもれず、需要は低迷しているにもかかわらず回収量が急増し、故繊維業界はきわめて厳しい経営環境に直面している。繊維リサイクル業界では、このような状況のもとで、平成12年度に繊維リサイクルの実態や課題を調査し、「故繊維輸出産業の将来ビジョン」(日本繊維屑輸出組合)をまとめている。
一方、国でも故繊維リサイクルの検討に着手している。平成12年5月に食品リサイクル法、建設リサイクル法が制定され、「衣食住」のうち「食」と「住」に関するリサイクルが法制化されたことになる。そのことを意識したかどうかはわからないが、「衣」についても経済産業省が平成12年度から「繊維製品リサイクル懇談会」を設けて、法制化も視野に入れながら検討を行っている。(※)
本稿では、これらの検討をふまえて、繊維リサイクルの現状と今後の課題を述べることとしたい。
※経済産業省は、平成13年1月に「繊維製品リサイクル懇談会」(座長 永田勝也早大教授)を設置し、繊維製品のリサイクル方策の検討を行ってきた。当初は「繊維リサイクル法」の制定も視野においていたと思われるが、最終的には法制化は困難であり、故繊維業界だけでなくアパレルや繊維製造事業者も含めた事業者の自主的な取り組みの強化と支援を図るという方向で、6月にとりまとめ案が提示されている。
再生資源は、発生源によって「市中屑」「産業屑」に大別される。市中屑というのはいったん製品になって消費者の手に渡ったあと回収されたもので、産業屑というのは製造工程で発生する加工屑などである。
繊維の場合は、前者を「ボロ」と呼び、後者を「屑繊維」呼ぶ。このボロと屑繊維を包括して「故繊維」と呼ぶ。
選別・梱包された「ボロ」
ボロには家庭や事業所から発生する衣料品、制服、シーツ、カーテンなどがある。屑繊維には縫製工場から発生する裁落屑(反物を裁ち落とした屑)や織布、紡績工場から発生する糸屑、綿屑などがある。廃棄物処理法ではこれらを廃棄物として処理する場合は、前者は一般廃棄物に、後者は産業廃棄物に該当することになる。
故繊維のリサイクルルートは古紙や鉄屑などにくらべてきわめて多岐にわたり、複雑である。
あとで詳述するが、故繊維の用途としては、中古衣料の輸出、ウエス(工業用雑巾)、反毛(はんもう、繊維をほぐして綿状にしたもの)がある。反毛はフェルトや紡績の原料となり、狭義の意味でのマテリアルリサイクルである。
ボロはかつて洋紙の原料として利用されていたことから、古紙とともに回収される。古紙問屋に集まったボロを「ボロ選別業者」が買取り、ここで用途別に選別し、それぞれの需要先に販売される。
屑繊維は、紡織・織布・縫製工場から専門の回収業者が回収し、繊維原料商を経て、反毛原料となる。一部は織布・縫製工場からウエス原料としてボロ選別業者が回収する場合もある。
ボロ選別業者では、古着として輸出するために、ボロを約140種類に選別するという。ボロの用途としては、かつてはウエスが主体であったが、現在では古着としての用途が3分の1以上を占めている。古着は種類別に梱包して、故繊維輸出商社を経て主として東南アジア、南アジア方面に輸出されている。
綿の下着などは、ウエス製造業者に販売される。ウエス業者はこれを定型にカットして工場などに販売する。
古着、ウエス材に向かないものは、反毛に加工される。反毛とは故繊維を針で引っ掻いて綿状の繊維に戻したものである。反毛はフェルト、クッションやぬいぐるみの中綿、反毛から糸を紡ぐ特殊紡績などの原料として利用される。
図1. 故繊維のリサイクルルート(出典:「故繊維輸出産業の将来ビジョン」)
平成8年度に通産省が行った調査(繊維製品リサイクル総合調査、受託三菱総研)によると、繊維製品全体の国内消費量は投入量ベース(加工工程で発生する屑繊維を含む)で年間229万トンで、大ざっぱな内訳は、衣料品が約50%、ふとん、シーツ、毛布などの日用品が20%、カーテン、カーペット、イスのクロスなどのインテリア用が10%、網、袋、不織布、フェルトなどの産業用が20%と推計されている。
これらの繊維製品は一般廃棄物として約145万トン、産業廃棄物として約26万トンが排出され、そのうち資源化された量を16万2000トン、資源化率は9.5%と推計している。
繊維総消費量 | 繊維総排出量 | 回収・資源化量 |
---|---|---|
2,287千トン | 1,712千トン | 162千トン |
※1994年データにもとづく推計 | 一般廃棄物 1,456千トン |
屑繊維 24千トン |
産業廃棄物 256千トン |
中古衣料輸出 46千トン |
|
反毛原料 37千トン |
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ウエス 55千トン |
※出典 「繊維製品リサイクル総合調査」(平成9年3月、三菱総研)
ところで、日本繊維屑輸出組合が平成12年度に調査した結果では、ボロとして回収されている量は18万9千トン、屑繊維は5万7千トンと推計している。ただしボロの中で禁忌品や資源化できないものが25%もあり、これらは廃棄物として処分されているので、実質的には13万2千トンとなる。(回収しても資源化できないものの比率は年々高まっている。)以上を総合すると、故繊維業界が回収・資源化している故繊維は約19万トン程度と推定される。
いずれにせよ、輸入を含めて200万トン強の繊維製品の消費量の内、回収されているのは10%程度にすぎないのが実状である。
古紙や他の再生資源と同様に、故繊維の回収量も増えている。市民意識の高まりを背景に、集団回収への支援や行政回収(行政が直接資源を回収する方式)の広がりに伴って、特に家庭から発生する衣料品の回収が増えている。
一方、故繊維の需要は伸び悩んでいる。故繊維の用途はかつてはウエスが主体であったが、現在では古着(中古衣料)の輸出が最大の需要先となっている。
神奈川県N社の取り扱い比率(N社資料より)
神奈川県の大手業者の用途別比率をみると、96年ではウエスが42%ともっとも多く、中古衣料が32%、反毛原料が21%であったが、2000年では中古衣料が41%になり、ウエスの比率は18%にまで減少している。また、廃棄される率が5%から29%に急増している。
以下、品目別にもう少し詳しくみてみよう。
中古衣料は国内での需要はほとんどなく、99%以上が輸出されている。中古衣料の輸出が始まったのは1960年代後半からでである。かつてはウエスの輸出を行っていた故繊維貿易商社が、ウエスに代わって中古衣料の輸出を手がけるようになり、需要が拡大していった。
欧米でも繊維製品のリサイクルの主力は中古衣料の輸出で、アメリカは南米、ヨーロッパは東欧、ロシア、アフリカをマーケットとしている。
わが国の輸出先はアジア諸国で、シンガポール、マレイシア、香港、フィリピン、バングラディシュ、パキスタン等に輸出されている。これは国民の体型が日本人に近いことがもっぱらの理由とされている。
しかし、これらの国々では冬物の需要がほとんどないため、冬物衣料は反毛原料にせざるをえない。ドイツでは冬物は東欧、ロシア、夏物はアフリカという需要地を有しているが、日本では冬物の需要が見込まれる中国への輸出がほとんどできない状況になっているため、冬物衣料の扱いが大きな問題になっているのである。
もうひとつの問題は、為替リスクである。取引国の多くが発展途上国であるという点から、為替相場や相手国の経済状況の変化の影響を受けやすい。現在、中古衣料の画が低落しているのも、こうしたことが背景にある。
Country | Quantity(Year to Date) | Value (Year to Date) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
単位:kg | 単位:千円 | |||||
89年 | 94年 | 99年 | 89年 | 94年 | 99年 | |
マレーシア | 2,381,680 | 1,904,620 | 18,750,364 | 329,672 | 265,344 | 1,627,054 |
シンガポール | 10,941,120 | 17,547,100 | 15,631,144 | 1,411,923 | 1,832,362 | 1,265,464 |
香港 | 10,678,324 | 13,078,225 | 11,792,136 | 1,767,772 | 1,178,851 | 596,508 |
フィリピン | 389,507 | 891,167 | 7,078,328 | 28,045 | 29,491 | 301,919 |
パキスタン | 11,506,200 | 7,889,925 | 4,024,040 | 864,051 | 366,314 | 159,221 |
大韓民国 | 480,550 | 7,088,486 | 2,891,571 | 42,312 | 70,537 | 146,805 |
バングラディシュ | 8,062,880 | 2,376,700 | 2,254,380 | 497,363 | 156,599 | 109,105 |
カンボディア | 20,217 | 324 | 2,170,500 | 8,066 | 360 | 124,649 |
インド | 245,300 | 721,300 | 1,615,450 | 15,616 | 45,349 | 106,976 |
インドネシア | 0 | 20,000 | 1,380,815 | 0 | 1,279 | 150,398 |
その他 | 538,782 | 888,029 | 2,107,930 | 142,868 | 103,698 | 315,230 |
合計 | 45,244,560 | 52,405,876 | 69,696,658 | 5,107,688 | 4,050,184 | 4,903,329 |
注):上表は貿易統計上製品番号630900000中古の衣類その他の物品(紡績用繊維性のもの)に含まれる商品の実績である。部分的に込みボロ(選別前のボロ)を含んでいると考えられる。
出典:「故繊維輸出産業の将来ビジョン」(平成12年度、日本繊維屑輸出組合)
ウエスは工場の現場では不可欠な資材として、様々な分野で使われてきた。また銃器の手入れにも使われることから、ある意味では軍需物資でもあった。したがって近代工業が勃興した明治初期から、ウエスの利用は始まっており、洗濯好きの国民性から日本のウエスの品質は高く、海外に大量に輸出されていた。
しかし製造業の海外移転やロボット化などFAの普及等、国内の産業構造の変化によって需要は減少している。80年代の円高以降は輸出も減少し、逆に中国などからバージン原料で作った安いウエスが輸入されるようになったり、紙ウエスやレンタルウエスがシェアをのばし、ボロから製造されるウエスの需要は落ち込む一方である。したがってウエスの需要は、今後も減ることはあっても増えることは期待できない。
さらに最近では各企業が環境マネジメントを導入したことによって、使用後は「廃棄物」となるウエスを敬遠し、大口需要家がまとめてレンタルウエスに切り替える傾向があり、ウエス製造業者の中には製造販売量が半分以下になったところもある。この結果、ウエス原料が供給過剰になり、廃棄物として処理される量が増えている。
反毛はもともと毛織物(毛ボロ)から純毛の繊維を回収する方法として明治時代から行われ、大正時代には愛知県の岡崎を中心として、綿の故繊維から紡績糸が生産されるようになり全国的な市場が形成された。しかし高度経済成長期以後はバージン繊維の量産が進み、反毛の用途はフェルトや建材(断熱材など)、作業用手袋(軍手)、クッションの中綿等に縮小し、現在に至っている。
反毛は故繊維を再び綿や糸に加工して使用するマテリアルリサイクルであるが、その需要は年々減少している。反毛製造業の全国最大の集積地である愛知県岡崎市の中部反毛工業協同組合の反毛生産量は、1986年が約6万1千トンであったのに対して、1998年では約3万7千トンにまで減少している。
反毛用途としては自動車の内装材として使用されるフェルトが約半分を占めているが、解体処理時のシュレッダーダストが問題となってから、「リサイクル可能な素材」への転換と称してペット繊維などに代替する動きが出てきており、フェルトの需要減に拍車をかけることが懸念されている。
先進国の繊維リサイクルは、中古衣料が発展途上国に輸出されることで維持されている。筆者らが2001年3月にドイツ環境省でヒアリング調査した結果では、繊維製品の回収率は約50%(年間約65万トン)、衣料に関しては70%(年間約54万トン)と推定している。回収した衣料の約50%は輸出されており、再生繊維製品の輸出とあわせると約70%が輸出されている。つまりドイツの繊維製品のリサイクルは、主として東欧やアフリカなどの発展途上国への輸出で成り立っているのである。
一国の中のクローズドなリサイクルは、現実的にはなかなか困難である。古紙も鉄屑も、アジアの新興工業国に輸出されているし、ペットボトルや発砲スチーロール、家電製品などは中国に輸出されている。ヨーロッパでも同様に、国内で余剰したものはアジアまで輸出されているものもある。
ドイツの故繊維回収拠点
(赤十字が管理している)
故繊維も同様であるが、故繊維業界によると現実には大消費地とみなされるインドや中国にはトレードバリアが存在するという。こうした問題を解消し、リサイクル分野での貿易秩序を構築していくことが第一の課題である。
輸出だけでなく、中古衣料の国内需要の創出も必要ある。中古衣料を扱うリサイクルショップが増えているが、国内の中古衣料市場はほとんど確立していない。中古衣料の市場環境整備が求められるところである。ちなみにドイツでは5%程度が国内需要である。
中古衣料として利用できないものについては、マテリアルリサイクルの拡充が不可欠である。衣料品はもともとボタンやファスナーなどの「部品」と一体化しているものが多く、素材もきわめて多様であるため、マテリアルリサイクルには手間がかかる。加えて、いろいろな新素材(最近は金属を使った繊維まである)が増え、マテリアルリサイクルをますます困難にしている。
素材の表示、リサイクル困難な繊維の使用削減などが必要であるが、再生繊維製品需要拡大が緊急の課題として求められる。ドイツでは反毛から毛布を生産し、それを赤十字が買い取って国際救援物資として提供している。日本でも防災備蓄用や海外支援用に再生毛布を活用するなどの方法が考えられる。再生繊維製品開発とこうした製品をグリーン購入の対象品目に加えるなどして、需要拡大を図っていくことが必要である。また、古紙需要が自治体や大手企業などの率先利用によって拡大していったように、再生繊維製品についても自治体、企業の需要が先導していくことを期待したい。特に、ボロウエスについては、繊維製品のカスケード利用という観点から再評価する必要があろう。
容器包装や家電製品など、他の工業製品ではリサイクルを考慮したモノづくりが進みつつあり、減量・リサイクルに関して事業者の責任が強く求められるようになっている。これに対して繊維製品に関しては、繊維業界もアパレル業界も作りっぱなし、売りっぱなしで、事業者としての責任を果たしていないことは否めない。零細な故繊維業界だけで、様々な課題を克服することは困難である。動脈側の繊維業界は繊維リサイクルにもっと真剣に取り組む必要があるのではないか。
―「技術と経済」(科学技術と経済の会)2001年9月号掲載原稿より―
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