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株式会社ダイナックス都市環境研究所
NPO法人 生ごみリサイクル全国ネットワーク副理事長
佐久間信一
2015年12月12日COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)が開催され、2020年以降の温暖化対策の枠組み「パリ協定」がすべての参加国の合意により採択された。合意された主な点を次に列挙する。
参加国は、COP21の開催前に約束草案(温室効果ガスの削減目標)を提出したが、それがすべて遵守されたとしても削減量は十分でない。しかし、参加したすべての国が、5年ごとの見直し・改善により全体目標に向かっていくということで、将来に望みをつないだ形だ。
日本が国連に提出した約束草案は、2030年度に2013年度比26%削減というものである。この数字を実現し、さらに高い目標に向かっていくためには、あらゆる分野で、あらゆる機会に削減対策を講じなければならないことは明白である。
2010年の世界の人為起源の温室効果ガスの排出量は、CO2換算で約500億トン、そのうち石炭や石油など化石燃料由来のCO2が65%の約326億トンである(IPCC第5次評価報告書)。ちょっと年がずれるが、2013年度の我が国の人為起源の温室効果ガスの排出量は、CO2換算で14億800万トン、世界の発生量の2.8%となる。そのうち、CO2の割合は約93%、他はメタンやフロン類である。(「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」(2015年4月)温室効果ガスインベントリオフィス)。
CO2は、石炭や石油製品の焼却から排出されるだけではない。植物は光合成によって有機物をつくり、動物は他の動植物を食して体内に有機物をストックする。動物は食して養分を体内に取り込み、残ったものを排泄する。排泄物や動植物本体もやがては分解されてCO2を排出する。
また、動植物は、生息中、呼吸によってCO2を排出する。軽作業中の呼吸を目安にすると、人間は1日当たり1kg前後のCO2を排出する(国立環境研究所HP「ココが知りたい温暖化 温暖化の科学Q1呼吸で大気中の二酸化炭素が増加する?」)とのこと。日本全体に拡大すると、年間4億7千万tのCO2量となり、国内の人為起源の温室効果ガスの30%強に当たる量である。動植物から排出されるCO2の量は人為起源の量をはるかに超えるのではないだろうか。
人類が化石燃料を使う前はCO2の濃度は安定しており、自然界の中でのCO2の出入りは、プラスマイナスゼロだったと考えられる。動物の体内に蓄積される有機物は食物連鎖によって植物とつながっており、もともとは植物が起源である。植物のライフサイクルの中でみると、植物が吸収するCO2と植物が分解(微生物や動物の体内での分解または焼却)されて排出するCO2は同じということである。このことを「カーボンニュートラル」と言って、温室効果ガスの算出から除外することしている。
温暖化対策においては森林でのCO2の吸収を認めているが、「カーボンニュートラル」との関係が分かりにくい。よく調べてみると、CO2を吸収する森林とは、成長のプロセスでCO2を確実に吸収するものであり、健全にCO2を吸収できるように保育している人工林、又は新たに植林した森林とのことである。天然林はCO2も吸収するが、木々の呼吸や枯死木や落ち葉の分解などで長期的に見ればCO2量はプラスマイナスゼロであるから吸収源の対象から外されている。
温室効果ガスは世界各国が共通の考えのもとで排出量や削減量を算出することが必要であるため、算出方法について細かなルールが定められている。上記で述べた「カーボンニュートラル」という考えやCO2の吸収源としての森林についても、ルールの一環である。
廃棄物分野での温室効果ガスの排出はCO2やメタンやフロン類等がある。CO2は、「エネルギー使用によるもの」と「焼却によるもの」に分けられる。エネルギー使用によるものは、収集車両や施設の運転によるものである。「焼却によるもの」は、カーボンニュートラルということで、生ごみや紙類、草木類等の有機質は除かれ、プラスチックや化学繊維の焼却によるCO2のみである。
廃棄物分野での温室効果ガスを考える上での特徴は、「温室効果ガスの削減効果」である。これは、ごみ焼却による発電や熱利用、バイオガスの発電など、廃棄物の処理プロセスでエネルギー回収が行えるということである。ここでエネルギーの回収が行えれば、日本全体としては化石燃料を利用した発電を減らすことになり、結果的にCO2の削減につながる。
我が国の一般廃棄物の焼却施設は、平成26年度で1,162施設あり、そのうち余熱を利用している施設が約66%(764施設)、余熱利用の中でも発電を行っている施設は約29%(338施設)である。発電を行っている施設はまだ少ないように思えるが、処理能力が100t/日以上の施設でみると586施設中322施設(55%)が発電し、さらに規模が大きくなるとその割合は高くなる。(日本の廃棄物処理 平成26年度版 環境省)。
廃棄物処理施設でのエネルギー回収は温暖化対策として重要なテーマであり、国は焼却施設での高効率発電の推進など力を入れているが、設備面等ハードの対応によるものに限られる。
生ごみを分別収集して堆肥化やメタン発酵を行っている自治体はまだ多くはない。多くの自治体では、生ごみを可燃ごみとして集め焼却処理している。生ごみの含水率は80%程度と言われており、生ごみだけで焼却することはできない。生ごみ以外に紙類やプラスチック類があるからこそ焼却できているのである。焼却炉の中では、生ごみを燃やすために、生ごみの水分を蒸発させている。例えば1kgの生ごみの場合、8割を占める水分800gを蒸発させるには480kcalのエネルギーが必要となる(※)。灯油1リットルの発熱量は8,718kcalであるから、生ごみ1tにつき55リットルの灯油と同じ熱量が使われていることになる。余熱利用を行っている焼却施設においては、生ごみの水分を除くことで、より多くの熱を廃棄物発電等の余熱利用に回すことが可能となり、化石燃料の使用を減らすことにつながる。
※常温(15〜25度C)の水1gを100度Cにするために必要な熱量は75〜85cal、さらにそれを蒸発させるために必要な熱量は540calで、合わせて615〜625cal(≈600cal)である。
国は発電効率の高い焼却施設の設置を進めているが、施設のハードに頼るだけでなく、焼却対象物から生ごみを除いたり、生ごみの水分を下げるなどのごみ質改良による対応も必要である。30年ほど前まではびん、缶の分別でさえ難しいと言われていたものが、今では分別が当たり前の行動となっている。住民の行動力を信じ、家庭内で生ごみから水分を除く取組、これを可燃ごみの「ごみ質改善運動」として推進してはどうだろうか。温暖化対策はもう待ったなしの状況で、ごみ処理分野でも対応することが必要となっている。
生ごみそのものは有機質であるためカーボンニュートラルであるが、含水率80%の生ごみを焼却することは、焼却エネルギーの無駄遣いで、地球温暖化対策としてはマイナスとなる。
生ごみネット会報 No. 41 2016年5月より